果実
2013年08月14日 14:34
芝生に埋もれて、一匹の虫が死んでいる。
六本の脚を内向きの状態で開き、反り返っている。
鎌のような形状をした二本の前脚は、その特徴を綺麗に残したまま立体感を失い、押し花のような風流さえある。
また、死骸には無数の黒い斑点模様が群がっている。
これはこれで、うじゃうじゃと動いている。解体した死骸の一部を運んでいる。
その列は段差や繁みをもろともしない。たとえば、列を割るように石を置いてみても、すぐに迂回して新しいルートを作ってしまう。
一人の少女が
とある日常を彩る人
2013年07月22日 22:23
思い上がりで上京した僕は、夢破れて、貧乏暮らしをしている。
ぼろいアパートで不味い弁当を食べて、分かりきった内容の漫画に少し笑う。そんな毎日です。
収入源は掛け持ちしているふたつのアルバイト。どちらとも地味な作業を淡々と続けるもので、僕に向いていると言えば向いている。自分で言ってて少し悲しいけど。
昔、学校の先生は言った。「生き甲斐を持ちなさい」と。
でも先生、僕にはそれは無理ですよ。
何よりかけがえないと信じていたものが、実は全然そんなことなかった時の虚しさを知ってしまった今の僕には、先生のありがたいお話さえ、薄ら寒いジョークに聞こえます。
というか
優しい味
2013年07月10日 17:26
窓から臨める世界は果てしない。しかし、窓枠という境界線を踏み越えることも決して許されない。
夕闇に落ちようとしている街の風景は、シルクのカーテンによってゆっくりと閉ざされた。
そこはとある女性が入院する個室病室。
全面乳白色の壁と中央に置かれた純白のベッドが病室特有の雰囲気をかもしだしている。出入り口はたったのひとつ。その扉を開いたのはランドセルを背負った少女だった。
「きたよー」
「いらっしゃい、アキ」
アキと呼ばれた幼い少女は慣れた動作でランドセルを背中から下ろす。その対面では彼女の姉と言っても差し支えない年齢の女性