悠人が帰宅したのは午後十時を過ぎていた。精霊を自称する少女アリスに絡まれたせいで一時間以上も帰りが遅くなってしまった。普段なら夜食を食べながら勉強をする所だが、今の彼にはそれを行なう気力は無かった。肝心の夜食もアリスの襲撃でダメになってしまっていた。
どうせ今日は金曜日、悠人はそう考え今日は眠る事にした。小腹が空いていたが、睡眠の邪魔になるとは感じなかった。
「こんばんは」
女性の声がした。声の主は隣に住む三姉妹の長女だった。長女は結婚して子供もいる。一人暮らしの悠人を気にかけてくれる優しい家族である。悠人はぺこりと会釈した。
「こんばんは。西城さん達も帰りですか?」
「映画です」
三女の風子が答えた。
「高級レストランだったのに……
風子は恨めしそうに呟いた。
「許してあげて。仕事なんだから」
長女の美雪は二人を窘めた。
「何かあったんですか?」
悠人は尋ねた。
「義兄さんの所為よ」
次女の雅はきっぱりと言った。
「全く違う店を予約するなんて。お陰で私達が謝る羽目になったんだから」
「ここで言っても仕様がないです」
風子が雅の肩をぽんと叩いた。
「よくよく考えたら義兄様がこういうミスを犯すのは当然だったのです。義兄さんを信頼してしまった私達の責任でもあるのです。本人に文句を言いたい所ですが、仕事を理由に逃げてしまったのです」
風子はこの場にいない美雪の夫に文句を言った。
「それで今夜は映画を見てからどこかで外食をしようと思っていたのだけど、娘が眠ってしまって」
美雪の背中では彼女の娘の花音が眠っていた。
「だからご飯は家で食べることになったの」
悠人も彼ならやりかねないと思い苦笑いした。優しく温厚ではあるが、とてものんびりしていて、少し間が抜けている、悠人は彼にそういった印象を持っていた。
「中上さんは夕食を食べられたのですか?」
風子が悠人に尋ねた。
「もしまだならご一緒しませんか?」
勿論、悠人は夕食など食べていなかった。
「ありがたいけど、今日はもう済ませたから」
悠人は慌てて首を降った。この家族にこれ以上世話になるのは申し訳なかったし、何より女性しかいない家に行く程の度胸を悠人は持ち合わせていなかった。
「ゲーム相手でも良いのですが」
風子は甘えるように見つめた。
「話し相手でも良いから」
雅も風子を真似た。
「解りました。ご一緒させて下さい」
悠人は渋々承諾した。彼は見かけと違って押しに弱かった。
「それじゃあ急いで支度しないと。皆手伝ってね」
美雪を先頭に五人は西城家へ入って行った。
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