落日のイノセンス 1-1

2013年07月22日 22:24

 春先の夜。中上悠人は平穏を失った。とある出会いが全ての始まりだった。

 料亭で皿洗いのアルバイトを終えた悠人は自転車に乗って家に向かっていた。交差点で赤信号に足留めを食っていた、その瞬間、目の前が真っ白になった。ストロボのようなフラッシュが瞬いたのだ。悠人はバランスを崩して横転した。誰かに体を抱えられる感触を受けながら、悠人は体の自由を奪われた。

「やっと起きた」

 若々しい声がした。悠人が顔を上げると、そこには銀髪の少女が立っていた。悠人は部屋中見渡した。少女以外には誰もいなかった。物という物も無い。床や壁の汚れ具合からどこかの廃屋という事は想像できた。悠人は立ち上がろうと試みたが、手足を縛られており、身動きが取れなかった。

「別に今どうこうしようって訳じゃないから安心して良いわよ」

 少女のな物言いに悠人は腹が立った。

「人を攫っておいて安心しろだって? ふざけんな!」

 悠人は少女を怒鳴りつけた。

「うるさいわね。 これだから低級能力者は。」

少女は溜め息をついた。悠人

「低級だって? 調子に乗んなよ、クソガキ!」

 悠人は少女の態度に我慢の限界を迎えた。これには少女も顔を真っ赤にして怒りを露にした。

「誰がクソガキよ!これでも私は十七歳よ!」

 少女の告白に悠人は驚きを隠せなかった。少女の身長は百五十センチ程度だったからだ。悠人は少女を中学生程度だと思っていた。余りの驚きで悠人の怒りはすっかり冷めてしまった。

「それで、俺に何の用なんだよ」

 少女は大きく深呼吸をして怒りを鎮めた。

「私達は治安維持機関イノセンス。とある事件の参考人として貴方の身柄を拘束しています」

 少女は白い手帳を見せた。手帳には金字でイノセンスと英語で記されていた。どうやら本物のようだが、悠人は少女の支離滅裂で理不尽な台詞に呆れてしまった。自分の能力を使ってここを脱出しようと考えたが、別の考えがそれを止めた。

(状況が解らない。下手に動くより情報を探るか)

 悠人は早く、そして安全に帰る為にも少女から情報を聞き出す事にした。

「とりあえず質問して良い……ですか?」

 悠人は、自分と少女は気が合わない、と考え少女を刺激しないように下手に出た。

「許可します」

 少女はそっぽを向いたが、緩んだ頬を悠人は見逃さなかった。

(どうやら下手に出るとコイツは気を良くするようだ)

 悠人はそう判断した。

「ここには……貴方以外にイノセンスのエージェントがいるんですか?」

「勿論よ。その無駄に大きい図体を私一人で運んだとでも思っていたなんてバカね。外に四人いるわ。今は貴方に無駄なプレッシャーを与えない為に聴取は私一人で行なっているの」

 悠人は質問を続けた。

「貴方達が捜査している事件というのは何ですか?」

 少女はふん、と鼻で笑った。

「言う訳ないじゃないの」

 悠人は質問を変えることにした。

「じゃあ、俺が捕まる理由を教えて下さい」

「それ位なら説明してあげる」

 少女は腕を組んだ。

「ある犯罪組織を追っていたらある場所に辿り着いたの。そこから貴方が飛び出して来たから捕まえたのよ」

 悠人は言葉を失った。

(コイツ……バカだ)

 真っ先に心に浮かんだ言葉だった。このままでは濡れ衣で本部へ連行されてしまうので、悠人は何とかこの場で自分の無実と証明しなければならなくなった。当然だが今の彼にはそれが出来るはずもない。

「お前達の捜査に協力させてくれ」

 それが彼の導き出した答えだった。

「何とか中の様子を調べる……むしろ潜入の手伝いをしたって良い」

 悠人は必死だった。

「解ったわ」

 少女は頷いた。

「じゃあさっさと行きましょう」

 少女は悠人を強引に引っ張った。

「ちょっと待てって!」

 悠人は叫んだ。

「さっき退勤した奴が戻って来たら怪しいだろう」

「それもそうね。じゃあ次はいつなの?」

 悠人は再度我慢の限界を迎えたが、今は身の安全がかかっていた。何とか怒りを鎮めた。

「月曜日の午後だ」

「今日が金曜日だから三日後ね。こっちも準備が出来るわ。今日の所は解放します。でも、勘違いしないで。貴方を信用した訳じゃないから」

 少女は悠人の手錠を外した。

(何を言っているんだ、コイツは)

 悠人はそんな事を考えながら手首をさすった。

「お前、名前は?」

 悠人は少女に尋ねた。

「私はアリス・ブランシェ、精霊よ」

 

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